駒場ドイツ文学・ドイツ思想研究会

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第一回読書会の報告

 第一回読書会では、ゼーバルト土星の環』(白水社、2007年)を扱った。
 
 最初に掲げられた問題提起では、„Mein Medium ist die Prosa, nicht der Roman.“という半ば常套句と化した彼の発言をめぐって、「ゼーバルトは何を書き、そして私は何をしているのか、あるいは何を書こうとしているのか」という問題が提起され、それに対する応答という形で議論が展開された。
 
 主な論点を列挙すると、イメージの併用や異言語の挿入といった表現上の問題から、格子、棺、蚕、鰊、収容所、墓石、敷居といったゼーバルトの好む、或いは本書で多用される形象の連関、そして、表題でもある「土星の環」という語から始まる神話的なイメージの連関と中心の不在という構造的な特徴についての指摘が挙げられる。
 
 しかしながら、議論の中で最大の問題になったのは、明確な構造の不在、或いは本書を読み解くことの難しさであると断言してよかろう。それは、近代的な意味での作品の形式を否定した後に如何なる形での叙述が可能か、より極言すれば如何なる歴史の記述が可能か、そもそもなぜ歴史を記述せねばならないのか、そして、なぜ読み、なぜ書くのかという根源的な問いに深化されうる問題である。もちろん、それに代わる何物かがあり得るとして、ゼーバルト自身がその新しい文体を十分に実現できていたかどうかについても疑義が提出された。
 
 全体として、次回のゼーバルトアウステルリッツ』を読むための準備として有益な議論であった。次回は同書を、主にイメージの使用についての考察や、ホフマンスタールの併読による間テクスト性の検討を交えながら会読する予定である。(T.Y.)